この章では、サウンドクリエイター視点でのシンセーサイザーの取り扱い技術について具体例を挙げながらまとめていきます。
サウンドクリエイターにとって、音楽、効果音どちらの制作にもシンセサイザーは関わって来ますし、またサウンドプログラム視点でも外せない知識となってきます。
ただ、サウンドクリエイターの第一歩として非常に苦手意識を持ちやすい部分でもあり、ある程度経験を積んだクリエイターでも、苦手意識を持ったまま放置していることも多く、そのことはとても勿体無い点でもあります。
この稿ではシンセサイザーへの苦手意識を打開する方法、そもそもシンセサイザーを学ぶメリットが何か?を述べます。
シンセサイザーへの苦手意識が必要のない理由
シンセサイザーに苦手意識のある方、あるいは今後の課題としている方、システム系効果音に悩んでる人、かっこいいリードシンセやシンセベースが出来なくて辛い方・・・
沢山のつまみやスイッチに辟易して、プリセットは痒いところに手が届かず、のような状態で悩んでる方も多いかと思います。
でも大丈夫です、安心して下さい。シンセはとても簡単ですし、別の事案に置き換えてみると想像し易いと思います。
- 楽典が苦手だった人・・・二度とか短三度とかドミナントとか意味不明なこと言われてもわからないし、変な記号いっぱい意味分からないどうしろと!これ覚えたら何に役に立つの??・コンプがよく分からなかった人・・・だってレシオやらスレッショルドやらよくわかんないし変なつまみいっぱいどうしろと!このつまみ触ると何おきるの??
- LOGICが苦手な人・・・だってエンバイロメントとか独特なよくわかんない言葉な上に色んな機能の意味がわかんない!!音楽とか効果音にこの機能必要なの??何のためにあるの?
- 英語が苦手な人・・・だって知らない単語がいっぱいだし、文法が意味わからない!!っていうかさ、日本から出る気ないし外国語なんて必要ないし!
共通して言えるのは、「専門用語がわからない、仕組みがわからない、用途がわからない」という点です。そして、同じような経験を皆さんは乗り越えてきたと思います。
シンセの専門用語・・・実はそんなに多くないです。すぐに覚えられます。
シンセの仕組み・・・凄く単純です。単純過ぎて多分びっくりすると思います。
シンセの用途・・・シンセにしかない音が作れて派手でカッコイイです。
また「シンセを勉強しよう!」と力を入れていると嵌まりがちな罠が幾つかあります。
一つはシンセの勉強をしたり、シンセを扱う一流の人間になれば「手足のように思ったとおりの音を一瞬で作れるようになる」みたいな幻想です。
残念ながら、というか安心して欲しいのですがそんなことないです。
もちろんプロですから要望された音をイメージしてそこに持っていく経験と技術、方法論は持っていますし、逆に言うとそれをできなければならないのですが、そのプロセスは皆さんが思っているよりも簡単で自由で結構運に頼っていて、そして忘れて欲しくないのが、楽しいものです。
海外の著名DJさんがトライアンドエラーでシンセを用いた楽曲制作をしている姿などを、Youtubeで公開されていたりします。是非ご覧になって頂けると面白いと思います。
もう一つは、「プリセットを使っちゃ駄目、本当に良い音は自分で作らなきゃいけない」という強迫観念です。
確かにプリセットばかりでは痒いとこに手が届かなかったりなどの問題はあるのですが、本質はそこではなく、「自分の思った音に近づける技術がないまま放置する」ことが問題ですので、逆に言えばちゃんと覚えればより自分の効果音や音楽に適当な音を得られるということです。決してプリセットからはじめることが害悪なわけではありません。
この章ではシンセの専門用語であったり、仕組みや成り立ち、具体的な用途を含め解説していきますので、楽しいシンセの世界に是非足を踏み入れて頂けたら嬉しいです。
シンセサイザーを学ぶメリット
まずは「他にない音が作れるから」です。
当たり前ですが、電子楽器の音は電子楽器以外で再現するのは非常に難しいです(もちろん逆もまた然りです)
そして生楽器にしかできないことがあるように電子楽器にしかできない「個性」があるからこそ、使いこなす価値があります。
次に、「現実でない音が作られるから現実にないシーンに合う」ということもあります。
例えば、SF映画とかで誰も作ったことないような機械や乗り物の音などには、合成で作ったほうがそれっぽいですよね?
電子楽器が登場してからは、それの音を使うことを特徴とした音楽のジャンルも生まれました。歪んだギターでロックができたように、今までになかった音だから新しいジャンルが出来ても不思議じゃないですよね?
また、「目立つ音だから注意をうながせる」ということもあります。
目立つ理由は、「作ろうと思えば不必要な倍音を含めず作れるから音圧が出せる」、「合成された現実にない音だから耳が向く」とも言えます。
このことは音楽の場合、「カッコよくて迫力のある音が作れる!」ということに繋がります。
もう一つ忘れてはいけないのが、その仕組み故にプログラムを使ってその場で音や音楽を生成できるため「データ容量削減になっていた」ということです。
そのため、ゲームなどに使われてきましたし、その「制限」の中で生まれた音や音楽を僕達は聞いてきてイメージを持ち、そして先人がそれをジャンルとして確立してきたのです。
シンセは他の楽器の代用品ではないということ
このことは誤解されがちなのですが、大切なことです。
もちろん「生楽器の代用品としてのシンセ」も重要ですし、僕らの仕事だとそれは尚更なのですが、そのこととは別に、「本物の偽者の本物」があることも忘れないで下さい。
元々、弦楽器が人の声を真似て、その代用品と作られていたのにも関わらず、弦楽器そのものに意味を持ったように、シンセにもシンセの方法論と使い道があります。
例えばシンセブラス、シンセストリングスと生のブラスや生のストリングスの「どちらが優れているか?」なんて愚かな考え方ですよね?
そして生楽器の代用品として扱う場合も、シーケンスならではの技術と方法論が必要となり、サウンドクリエイターの業務では重要なことになります。